退職金の「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなる?20.42%源泉徴収と取り戻し方をFPが解説

税金

退職金の案内と一緒に、勤務先から「退職所得の受給に関する申告書」という紙を渡されることがあります。名前が長くて中身も分かりにくいため、後回しにしたまま提出しそびれる人が少なくありません。

ところがこの1枚を出さないと、退職金の手取りが一時的に数十万円から数百万円単位で減ることがあります。この記事では、国税庁の情報をもとに、何がどう変わるのか、出し忘れたらどうすればよいのかを整理します。

結論:出さないと支払金額の20.42%が源泉徴収されます

先に結論です。

  • 提出した場合:勤務先が退職所得控除を反映した正しい税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です。
  • 提出しない場合:退職金の支払金額に対して一律20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、受給者本人が確定申告で精算することになります。

国税庁のタックスアンサーでは、申告書を提出していない人について、退職金等の支払金額の20.42パーセントの所得税額および復興特別所得税額が源泉徴収され、受給者本人が確定申告を行うことで精算する、と説明されています(No.1420、令和7年4月1日現在法令等)。

つまり払いすぎた税金が戻らなくなるわけではありません。ただし、確定申告をするまで手元のお金が大きく減り、手続きの手間も自分で負うことになります。「損する」のは主に資金繰りと手間の部分です。

国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

この記事で分かること

  • 「退職所得の受給に関する申告書」を誰に、いつまでに出すのか
  • 出した場合と出さない場合で、手取りがどれくらい変わるのか(勤続年数別の目安)
  • 住民税は申告書の有無で変わらないという、間違えやすいポイント
  • 出し忘れたときに取り戻す手順と、いつまでにやればよいのか
  • 2026年(令和8年)1月から変わった、源泉徴収票の提出範囲

「退職所得の受給に関する申告書」とは何か

退職手当等の支払を受ける人が、勤続年数などを記載して退職手当等の支払者(多くの場合は勤務先)に提出する書類です。国税庁の手続案内(A2-29)では、次のように整理されています。

手続の対象者退職手当等の支払を受ける居住者
提出期限退職手当等の支払を受ける時まで
提出先退職手当等の支払者(勤務先など)
税務署への提出支払者は、税務署長から特に提出を求められた場合以外は税務署へ提出する必要がなく、支払者が保管する
添付書類その年中に他の退職手当等の支払を受けている場合は、その退職手当等に係る「退職所得の源泉徴収票」1部

ここで押さえておきたいのは、自分で税務署に持って行く書類ではないという点です。勤務先に出せば手続きは完了します。用紙も勤務先から配布されるのが一般的で、様式は国税庁のページからも確認できます。

国税庁「A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」

提出すると税額計算はこう変わる

退職金は、給与とは別に計算される「退職所得」という区分です。国税庁の計算式は次のとおりです。

(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額

退職所得控除額は勤続年数で決まります。

勤続年数(=A)退職所得控除額
20年以下40万円 × A(80万円に満たない場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(A − 20年)

勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上記に100万円が加算されます。

この控除を差し引いて2分の1にした金額に、速算表の税率を当てはめたものが本来の税額です。申告書を出すと、この計算を勤務先がしてくれます。出さないと、勤務先は控除も勤続年数も使えないため、支払金額にそのまま20.42%を掛けることになります。

勤続年数別・どれくらい差が出るか(目安)

国税庁の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」(令和7年4月1日現在法令等)で計算した目安です。金額はあくまで目安であり、実際は勤続年数の端数、同じ年の他の退職金の有無、役員かどうかなどの条件により異なります。

ケース勤続年数退職金退職所得控除額退職所得の金額申告書あり
(所得税+復興特別所得税)
申告書なし
(20.42%の源泉徴収)
A10年300万円400万円0円0円612,600円
B20年1,500万円800万円350万円278,222円3,063,000円
C35年2,000万円1,850万円75万円38,287円4,084,000円

ケースAは、退職金が退職所得控除額に届かないため所得税は0円です。それでも申告書を出さなければ、いったん61万円あまりが差し引かれます。

ケースCのように勤続年数が長い場合は控除額が大きく、本来の所得税等は約3.8万円です。それに対して申告書なしでは408万円あまりが源泉徴収され、差は400万円近くになります。勤続年数が長い人ほど、出し忘れの影響が大きくなります。

いずれも確定申告をすれば精算されますが、退職直後は住民税の納付書が届いたり、健康保険の切り替えが発生したりと出費が重なりがちな時期です。手元資金が数百万円単位で目減りするインパクトは小さくありません。

国税庁「別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表」

間違えやすい点:住民税は申告書の有無で変わらない

ここが最も誤解されやすいところです。20.42%という取扱いは所得税(と復興特別所得税)だけの話で、住民税には当てはまりません。

退職所得に対する住民税は「分離課税に係る所得割」と呼ばれ、退職手当等が支払われる際に支払者が計算して特別徴収します。総務省の案内によると、平成25年1月1日以降は、退職所得の金額に市町村民税6%・道府県民税4%の税率を適用して計算します。

そして広島市の解説では、税額の計算方法として「退職所得申告書」の提出がない場合も、提出があって他の退職手当等がない場合と同じ要領で計算する、と明記されています。つまり住民税の側では退職所得控除がきちんと反映されるということです。

先ほどの表に住民税を加えると、次のようになります(100円未満切捨て後の目安)。

ケース退職所得の金額市町村民税6%道府県民税4%住民税の合計
A0円退職金の収入金額が退職所得控除額より少ないため、分離課税に係る所得割は課税されません
B350万円210,000円140,000円350,000円
C75万円45,000円30,000円75,000円

この住民税額は、申告書を出しても出さなくても変わりません。「申告書を出し忘れると住民税まで跳ね上がる」というのは誤りです。ただし、取扱いの詳細や様式は市区町村によって案内が異なるため、気になる場合はお住まいの市区町村にご確認ください。

総務省「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」
広島市「退職所得に対する住民税のあらまし」

出し忘れたときの取り戻し方

すでに20.42%で源泉徴収されてしまった場合は、確定申告で精算します。国税庁も、申告書を提出していない人は受給者本人が確定申告を行うことで所得税額および復興特別所得税額の精算をする、と案内しています。

手順

  1. 「退職所得の源泉徴収票」を手元に用意する。退職後1か月以内にすべての受給者に交付されることになっています。届いていなければ勤務先に問い合わせます。
  2. 勤続期間を確認する。入社日と退職日、同じ年に他の退職金や確定拠出年金の一時金を受け取っていないかも確認します。
  3. 確定申告書を作成する。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で、画面の案内に沿って入力できます。退職所得は分離課税用の欄に記載します。
  4. 所轄税務署へ提出する。提出先は、提出するときの納税地を所轄する税務署長です。

いつまでにやればよいか

納めすぎた税金を戻す申告は「還付申告」にあたります。国税庁によると、還付申告書は確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。

ただし、その年に他の所得があって確定申告そのものが必要な人など、状況によって扱いは変わります。自分がどちらに当たるか判断がつかない場合は、所轄税務署に確認してください。

国税庁「No.2030 還付申告」

なお、医療費が多くかかった年に確定申告をするなら、同じタイミングで医療費控除も検討できます。控除の選び方は医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できる?国税庁の情報で選び方を解説で整理しています。

2026年1月から変わった点:源泉徴収票の提出範囲

退職金まわりで、直近に実務が変わった点があります。国税庁のタックスアンサーNo.7421(令和8年1月1日現在法令等)によると、退職手当等の支払をした場合、すべての受給者について「退職所得の源泉徴収票等」を提出しなければならないとされています。

令和7年12月31日以前に支払うべき退職手当等については、税務署と市区町村へ提出しなければならないのは受給者が法人の役員である場合に限られていました。2026年(令和8年)1月1日以後に支払うべき退職手当等からは、役員かどうかを問わず全員分が対象という整理です。

受け取る側から見れば、退職金の内容が税務署に把握されやすくなったということです。「確定申告を忘れたままでも気づかれない」という前提は成り立たなくなっていると考えたほうがよいでしょう。

国税庁「No.7421 『退職所得の源泉徴収票』の提出範囲と提出枚数等」

提出前に確認しておく3点

申告書を書くときに迷いやすいのは、次の3点です。

1. 勤続期間(入社日と退職日)

退職所得控除額を左右する最重要項目です。1年未満の端数は1年に切り上げます。10年2か月なら11年として計算されます。

2. その年に他の退職金を受け取っていないか

同じ年に2か所以上から退職手当等を受け取る場合は、控除額の計算が変わることがあります。先に受け取った分の「退職所得の源泉徴収票」を添付する必要があります。確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の一時金も退職所得とみなされるため、受け取っている場合は必ず記載してください。

3. 障害が原因の退職かどうか

障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が加算されます。該当しそうな場合は勤務先に申し出てください。


退職金の使い道まで含めて相談したい場合

まず前提として、ここまでの手続き自体に費用はかかりません。申告書は勤務先に出すだけ、出し忘れた場合の精算も確定申告で自分でできます。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば無料です。制度で解決できる部分は、まず制度で対応してください。

そのうえで、退職金という大きなお金が入った後の設計、たとえば公的年金の受給開始をいつにするか、住宅ローンを繰上返済すべきか、生活防衛資金をどこまで残すかといった話は、税務手続きとは別のテーマです。こうした点を整理したい場合は、FPへの無料相談を使う方法があります。

向いている人:退職金の税金の手続きは終わり、その後の家計・年金・資産の配分をまとめて整理したい人。
利用前の注意点:相談は無料でも、相談員が特定の金融商品を扱っている場合があります。その場で契約せず、提案内容を持ち帰って比較してください。税務の個別判断(自分の確定申告が必要かどうかなど)は税務署または税理士の領域です。

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注意点・例外

  • 短期退職手当等:役員等以外で勤続年数が5年以下の場合、退職所得控除額を差し引いた残額のうち300万円を超える部分には、2分の1にする計算が適用されません。
  • 特定役員退職手当等:役員等勤続年数が5年以下の役員等が受け取る退職手当等には、2分の1にする計算の適用がありません。
  • 死亡による退職:死亡により支払われる退職手当等は相続税の課税対象となるため、住民税は課税されません。所得税でも「退職所得の源泉徴収票等」ではなく相続税法の支払調書の対象になります。
  • 申告書を出していても確定申告が必要な場合がある:医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどの理由で確定申告書を提出するときは、退職所得の金額を記載する必要があります。
  • 確定給付企業年金の一時金:従業員自身が負担した保険料または掛金がある場合は、支給額からその金額を差し引いた残額が退職所得の収入金額になります。

制度は改正されることがあります。この記事の内容は2026年8月22日時点で国税庁・総務省などの公式ページを確認して書いていますが、実際に手続きをする時点で最新情報をご確認ください。

よくある質問

「退職所得の受給に関する申告書」はどこに提出しますか?

退職手当等の支払者(多くの場合は勤務先)に提出します。国税庁の手続案内では、提出期限は退職手当等の支払を受ける時までとされています。支払者は税務署長から特に提出を求められた場合を除き、税務署へ提出せず保管することになっています。

提出しないと必ず損をしますか?

最終的な税額が増えるわけではありません。提出しない場合は退職手当等の支払金額に20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、受給者本人が確定申告で精算します。ただし手元に入る金額が一時的に大きく減り、確定申告の手間もかかります。

出し忘れた場合、いつまでに確定申告すればよいですか?

納めすぎになっている税金を戻す申告は還付申告にあたります。国税庁によると、還付申告書は確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。ただし手続きの要否や期限は状況で異なるため、所轄税務署にご確認ください。

申告書を出さないと住民税も高くなりますか?

住民税(分離課税に係る所得割)は退職所得の金額に市町村民税6%・道府県民税4%を適用して計算され、退職所得申告書の提出がない場合も同じ方法で計算されます。所得税のような20.42%の取扱いはありません。

申告書を出していれば確定申告は不要ですか?

国税庁によると、提出している場合は支払時に税額が源泉徴収されるため、原則として確定申告は必要ありません。ただし医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどの理由で確定申告書を提出する場合は、退職所得の金額を記載する必要があります。

まとめ

  • 「退職所得の受給に関する申告書」は、退職手当等の支払を受ける時までに勤務先へ出す書類です。
  • 出さないと支払金額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります。
  • 勤続年数が長い人ほど本来の税額との差が大きく、数百万円単位の差になることもあります。
  • 住民税は申告書の有無で計算方法が変わりません。市町村民税6%・道府県民税4%です。
  • 出し忘れても還付申告は翌年1月1日から5年間できます。まず源泉徴収票を確認してください。

給与や賞与から何がどう引かれているかを整理しておくと、退職時の税金も理解しやすくなります。賞与(ボーナス)から引かれる税金・社会保険料はいくら?手取り額の計算例つきでFPが解説もあわせてご覧ください。

また、「申請しないと損をする」制度は退職金以外にもあります。医療費が高額になったときの限度額適用認定証を申請しないとどれくらい損する?高額療養費との違いをFPが解説も、退職前後に知っておくと役立ちます。

退職後のお金の設計を相談したい方へ

繰り返しになりますが、税務手続きそのものは公的な窓口と無料の作成コーナーで完結します。そのうえで、退職金を含めた家計全体の設計を第三者に整理してもらいたい場合は、FPの無料相談という選択肢があります。提案されたものをその場で契約せず、必ず持ち帰って比較してください。

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公式情報・参考ページ

本記事はFP2級×宅建士の運営者が、2026年8月22日時点の公式情報を確認して作成しています。個別の税額や手続きの要否は、勤務先・所轄税務署・お住まいの市区町村にご確認ください。

参考情報
参考情報:
本記事は、金融・保険・税金・不動産・資産運用・家計管理に関する一般的な情報として、金融庁、国税庁、厚生労働省、消費者庁、国土交通省、各自治体・公的機関、各金融機関・公式サイトの情報を参考に作成しています。
制度改正、税制改正、商品内容、金利、手数料、条件などは変更される場合があります。最終的な判断は、必ず公式情報を確認し、必要に応じて税理士、弁護士、ファイナンシャルプランナー、金融機関、不動産会社などの専門家へご相談ください。
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